知らない世界

 桜木紫乃に続いて柚木麻子の新刊(といっても出版は1年前だった……)『デートクレンジング』を読みました。書き下ろし。

 主人公の佐知子は栄養士で、社員食堂に勤務していたときに知り合った夫と結婚し、今は彼の実家の喫茶店を手伝っています。学生時代からの親友実花は、アイドルグループ「デートクレンジング」のマネジャーをしていたのですが、グループは解散。筋金入りのドルオタだった実花が35歳だと急に焦り出し、婚活を始めたことに佐知子は大いに違和感を感じてしまいます。

 デートクレンジングはデートをしなくちゃと焦らず自分で意識的にデートをしない期間を作ることだそうです。それをグループ名にするのはどうなんだ?と思わないでもなかったけど、この本を貫いているのは、年齢や性別により周囲から課せられる期待は呪いであって、無理に従わなくてもいいということ。本の中では、呪われて動いているように見えていた人々もやがて落ち着く場所に落ち着いていきました。

 この呪い、重いよね……。結婚出産関係の呪いからは解き放たれた今、この本の登場人物たちには大いに同情しました。自分のペースでのんびりやればいいよと、相談されれば答えるだろうけれど、女性の場合は出産可能年齢の壁もあって一筋縄ではいかないとも感じたのでした。

 アイドルには一度も興味を持ったことがないので、ドルオタの世界もおもしろかったです。実は少し前にとてもいいコンサートに行ったものの、正直スピーカーを通して聴く音楽って、家で聴くのとどこが違うんだろうと思っていました。でもこの本のようにコンサートで奇跡が起こるのを目の当たりにしたら、病みつきになっちゃうかも。私の行ったコンサートでは「選ばれし観客」がいたのですが、彼女たちにとっては奇跡の一夜だったに違いありません。

あ、そういうことだったの?

 ずいぶん前に読んだ『ごく普通の在日韓国人』は1987年に出版された本で、著者はわたしと同世代、同じ県の出身の人でした。

 中高時代は近くに朝鮮高校があって、たまにチマチョゴリ風の制服を着た女の子を見かけたけれど、この著者は日本の学校に通い東大法学部を卒業した人なので、家や親戚づきあいには日本と異なる点は多々あれど、気持ちは日本の中高生とあまり変わらない感じです。それでもあっちに気兼ねし、こっちで疑問を持ちの繰り返しに、なかなかたいへんだなあと思いました。。

 正直、わたしが年を重ねているせいか、あまり驚くような情報はなくて、昨年読んだ小説『朝鮮大学校物語』のほうがよっぽど衝撃的でした。この本が出版された30年前には、あまり知られていないことだったのかもしれません。まさか30年後に読まれると思って書くわけではないものね。

 唯一、あっと思ったのは、戦時中の強制連行のときは朝鮮は日本と考えられていたという事実。日本人は外国から人を連れてくるという意識で人を動かしたんではなかったんだ。当然のことなのにその視点で考えたことがありませんでした。だから終戦時にもう別の国なんだから帰ったら?という発想になったんだ……。この感想は、歴史をちゃんと勉強したら間違っているのかもしれないけれど、まあ、この本を読んだことによってそう考えたのは事実なので、そのまま残しておくことにします。昨年は映画『焼肉ドラゴン』で、日本の朝鮮人街は強制連行で移り住んで人たちばかりではない(戦後の済州島弾圧で逃げてきた人たちを扱っていたので)ということを知ったり、イメージと現実はいろいろ違うんだなあと考えさせられたのでした。

流れ着く先

 桜木紫乃の新刊(といっても出版は昨年末でした……)、『光まで5分』は著者には珍しく沖縄が舞台。主人公のツキヨは北海道から流れて沖縄にたどりついた女性です。流れ者が行きつく場所、流れ者でもなんとなく生きられそうな場所、という意味で那覇と札幌は似ているのかもしれません。

 ツキヨが流れ着いたのは「竜宮城」という売春宿。そこが行き止まりだと思っていたけれど、歯の痛みが縁でやはり流れてきた元歯科医の万次郎、そして同居しているヒロキという男たちと知り合い、彼らとつかのま一緒に暮らすことになります。ひさしぶりに海の底から明るい場所に出てきたツキヨだったけど……という話でした。

 3人がどこに行きつくかはそれほど問題ではない気がします。この3人は私の人生では絶対に出会わないような人たちで、その思考回路も遠い世界のもののように思われましたが、それでもとてもリアルにくっきりと輪郭が描かれているように感じました。同じ地球、同じ日本に、彼らと似たような暮らしをしている人がいると思うととても不思議な気分になります。こんな暮らしがしたいとは思えないけれど、どこででも暮らしていけるツキヨのたくましさや諦観に少し憧れてしまう自分もいたのでした。

 

すごい人vsすごい人

 電車のお供に穂村弘の『あの人に会いに』を連れていきました。「穂村弘の、よくわからないけど、あきらかにすごい人」というタイトルで連載されていた対談集です。

 登場する9人は、ほんとに「あきらかにすごい人」でした! 谷川俊太郎、宇野亞喜良、横尾忠則、佐藤雅彦、荒木経惟、萩尾望都、高野文子、甲本ヒロト、そして吉田戦車。何という人選! 読むまでこの中の誰かひとりに傾倒するということはなかったのですが、佐藤雅彦だけが表現の手段を持たない人で、その異質なすごさが印象に残りました。

 普通の穂村弘がすごい人に会いに行く、という気持ちで行なった対談のようですが、穂村弘自身もすごい人なので、お互いのリスペクト感が溢れていました。これもまたもっと早く読みたかった1冊でした。生き方指南が書いてあるわけではないけれど。

 

まずは行動せよ

 令和最初の1冊は夏木マリの『好きか、嫌いか、大好きか。で、どうする?』になりました。これまで彼女の舞台や音楽は触れる機会がなかったのですが、テレビで垣間見る姿は気風のいい姐さんという感じで好ましく思っていました。

 この本は雑誌に連載された人生相談の間に自身の過去の話やコラムが挟まれているという体裁でした。人生相談の答えもスパッと気持ちいいものでした。こんな答えでは困るだろうなと思うものもあったけれど、芸能生活しかしていない人に会社の人間関係を想像させるのは難しいよね。答えの基本はぶれていなくて、とにかく行動せよ、行動して失敗して学べというものでした。もっと早く読みたかった!

 夏木マリさんは20代が暗黒の10年だったそうですが、わたしは気づいたら暗黒の時代が20年以上続いている気がします。連休明けから大きく環境が変わる予定なので、行動して失敗して学べ、を肝に銘じて過ごしていこうと思いました。そういう意味では読むのによいタイミングだったのかも。

子供が主人公の大人の小説

 今日から令和。平成最後に読んだのは朝倉かすみの『ぼくは朝日』でした。やっぱり好き、この人。

 舞台は1970年の小樽で、主人公は10歳の少年朝日です。母親は朝日の出産時に亡くなっていて、朝日は父親と10歳上の姉の夕日と3人で暮らしています。小学生が主人公なので小さな世界の話なのだけど、その小さな世界で起こるさまざまな事件を作者は主人公の心持ちを含めて丁寧に描いていました。

 子供が主人公でも、児童向けの小説ではなくて、1970年を懐かしく思える世代が楽しめるようになっていました。昔の空気をこんなに的確に書けるなんて、作家の記憶力、再現力ってすごいです。

 最終章の夕日の話は、朝日が見た大人の世界の話。はっきり書かずに重たい空気だけで伝える作者の力量を感じました。

勘違いしてました

 韓国に行くことにして、韓国が気になって、鷺沢萠の『この惑星のうえを歩こう』を図書館から借りてきました。旅を中心にしたエッセイ集です。読み終わったのは戻ってきてからになっちゃったけど。

 在日韓国人で自死した作家くらいのイメージだったのだけど、ウィキで読んだら韓国人の血が流れていると後から知って韓国に興味を持った日本人、なんですね。韓国に留学したという意味では韓国に近いけれども、日本と韓国のあいだで葛藤するというようなことはなく、視線も日本人観光客のそれとさほど変わらないように思いました。

 出版は2002年。古い韓国ドラマを見ていると、演技スタイルの古さに辟易することがあるのだけど、この本も出版時に読んでいれば感じなかったであろう文章スタイルが鼻についてしまいました。自分大好きを全開にしている感じとかが。おもしろく読めたらどんどん読んでみようと思ったんだけど、微妙な感じ。小説を読んだらまた違う印象を持てるのかな。

 

もっと知りたい

 というわけで、昨年出版の岩波新書『K-POP』を読みました。初訪韓の往復の機内で。KPOPってなに?という疑問も、なんでこんなに世界的にウケているの?という疑問も解消されました。Youtube、恐るべし。

 本書では韓国のポピュラー音楽史を概説してくれているので入門者には有難かったです。日本の真似をしていた韓国は日本を追い越し、アメリカに目を向け、さらに独自の路線を走るようになったんですね。日本のアニメ、韓国のKPOPって感じも納得。いずれにしても好きな文化を持っている国は嫌いになれないですよね。いい戦略だと思います。平和的だし。日本の若者もKPOPのグループにいたりしますが、日本発のKPOP的グループがあってもいいのになあと思いました。


 韓国の観光地でも東南アジア系の人たちがけっこう多くて、これはKPOPファンなのかなーと思ったりしました。それとソウルには大きなCDショップがなかった! 本書で書かれていたダウンロード社会を実感しました。


 KPOPをほとんど聴いていないので、本書に出てくる人名やグループ名を見ても曲がひとつも思い浮かばないのがちょっと残念ではありました。でも帰国後に見ていた韓国のバラエティ番組に登場した歌手が、さっきこの本を見直したら大物シンガーソングライターの位置づけだったのでビックリ。番組ではトホホな中年男性だったので。今度、ちゃんと聴いてみようっと。

韓国エンタメの謎とき

 韓国絡みでもう1冊『韓流エンタメ日本侵攻戦略』という新書を読みました。にわかファンの私には冬ソナ以降の流れを教えてくれて、ああそういうことなのかと腑に落ちる点が多々ありました。

 なぜK-POPはあんなにレベルが高いのか、なぜメンバーは外国語が達者なのか、なぜこんなに日本に攻勢をかけてくるのか(それに引き換え、日本のアイドル系はなぜあんなに子供っぽく、また海外へ出て行かないのか)といった疑問があっさり解決されました。それもこれも韓国のエンタメマーケットが小さすぎるからなんですね。(そして日本は国内市場だけで充分潤っているから海外に出ていく必要を感じないと)。


 ドラマから入ったわたしですが、ドラマにはアイドルも出演していて、演技がうまければ、どんな歌を歌っているんだろうと気になります。まんまと戦略に乗せられてる感じですね。お金を落とさないところが違っているだけで。


 芸能界という小さな世界の解説書ですが、そこから一般的な韓国人の考え方も透けてみえます。社会学的な意味でもおもしろい1冊でした。この本は少し前のものなので、もう少し新しい話も読んでみたいです。

今の韓国フェミニズム

 韓国マイブームが続いています。ハングルも読めるようになってきたし、こうなったらとことん行っちゃおうという気持ちでいます。というわけで『ヒョンナムオッパへ』というアンソロジーを読みました。「韓国フェミニズム小説集」という副題がついていて、7人の作品が収録されています。

 フェミニズム小説をと依頼されて書かれた作品ですが、ミステリあり、ホラーあり、SFありとバラエティに富んでいました。表題作とその次の作品はドラマの登場人物を見ているようで読みやすかったのですが、そこからどんどん混沌としていき、なんでこれがフェミニズムなんだろうと思うような作品もありました。

 私にとっては玉石混淆でしたが、それでもよい経験でした。韓国文学、また手に取ってみようと思います。

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