流れ着く先

 桜木紫乃の新刊(といっても出版は昨年末でした……)、『光まで5分』は著者には珍しく沖縄が舞台。主人公のツキヨは北海道から流れて沖縄にたどりついた女性です。流れ者が行きつく場所、流れ者でもなんとなく生きられそうな場所、という意味で那覇と札幌は似ているのかもしれません。

 ツキヨが流れ着いたのは「竜宮城」という売春宿。そこが行き止まりだと思っていたけれど、歯の痛みが縁でやはり流れてきた元歯科医の万次郎、そして同居しているヒロキという男たちと知り合い、彼らとつかのま一緒に暮らすことになります。ひさしぶりに海の底から明るい場所に出てきたツキヨだったけど……という話でした。

 3人がどこに行きつくかはそれほど問題ではない気がします。この3人は私の人生では絶対に出会わないような人たちで、その思考回路も遠い世界のもののように思われましたが、それでもとてもリアルにくっきりと輪郭が描かれているように感じました。同じ地球、同じ日本に、彼らと似たような暮らしをしている人がいると思うととても不思議な気分になります。こんな暮らしがしたいとは思えないけれど、どこででも暮らしていけるツキヨのたくましさや諦観に少し憧れてしまう自分もいたのでした。

 

すごい人vsすごい人

 電車のお供に穂村弘の『あの人に会いに』を連れていきました。「穂村弘の、よくわからないけど、あきらかにすごい人」というタイトルで連載されていた対談集です。

 登場する9人は、ほんとに「あきらかにすごい人」でした! 谷川俊太郎、宇野亞喜良、横尾忠則、佐藤雅彦、荒木経惟、萩尾望都、高野文子、甲本ヒロト、そして吉田戦車。何という人選! 読むまでこの中の誰かひとりに傾倒するということはなかったのですが、佐藤雅彦だけが表現の手段を持たない人で、その異質なすごさが印象に残りました。

 普通の穂村弘がすごい人に会いに行く、という気持ちで行なった対談のようですが、穂村弘自身もすごい人なので、お互いのリスペクト感が溢れていました。これもまたもっと早く読みたかった1冊でした。生き方指南が書いてあるわけではないけれど。

 

まずは行動せよ

 令和最初の1冊は夏木マリの『好きか、嫌いか、大好きか。で、どうする?』になりました。これまで彼女の舞台や音楽は触れる機会がなかったのですが、テレビで垣間見る姿は気風のいい姐さんという感じで好ましく思っていました。

 この本は雑誌に連載された人生相談の間に自身の過去の話やコラムが挟まれているという体裁でした。人生相談の答えもスパッと気持ちいいものでした。こんな答えでは困るだろうなと思うものもあったけれど、芸能生活しかしていない人に会社の人間関係を想像させるのは難しいよね。答えの基本はぶれていなくて、とにかく行動せよ、行動して失敗して学べというものでした。もっと早く読みたかった!

 夏木マリさんは20代が暗黒の10年だったそうですが、わたしは気づいたら暗黒の時代が20年以上続いている気がします。連休明けから大きく環境が変わる予定なので、行動して失敗して学べ、を肝に銘じて過ごしていこうと思いました。そういう意味では読むのによいタイミングだったのかも。

子供が主人公の大人の小説

 今日から令和。平成最後に読んだのは朝倉かすみの『ぼくは朝日』でした。やっぱり好き、この人。

 舞台は1970年の小樽で、主人公は10歳の少年朝日です。母親は朝日の出産時に亡くなっていて、朝日は父親と10歳上の姉の夕日と3人で暮らしています。小学生が主人公なので小さな世界の話なのだけど、その小さな世界で起こるさまざまな事件を作者は主人公の心持ちを含めて丁寧に描いていました。

 子供が主人公でも、児童向けの小説ではなくて、1970年を懐かしく思える世代が楽しめるようになっていました。昔の空気をこんなに的確に書けるなんて、作家の記憶力、再現力ってすごいです。

 最終章の夕日の話は、朝日が見た大人の世界の話。はっきり書かずに重たい空気だけで伝える作者の力量を感じました。

勘違いしてました

 韓国に行くことにして、韓国が気になって、鷺沢萠の『この惑星のうえを歩こう』を図書館から借りてきました。旅を中心にしたエッセイ集です。読み終わったのは戻ってきてからになっちゃったけど。

 在日韓国人で自死した作家くらいのイメージだったのだけど、ウィキで読んだら韓国人の血が流れていると後から知って韓国に興味を持った日本人、なんですね。韓国に留学したという意味では韓国に近いけれども、日本と韓国のあいだで葛藤するというようなことはなく、視線も日本人観光客のそれとさほど変わらないように思いました。

 出版は2002年。古い韓国ドラマを見ていると、演技スタイルの古さに辟易することがあるのだけど、この本も出版時に読んでいれば感じなかったであろう文章スタイルが鼻についてしまいました。自分大好きを全開にしている感じとかが。おもしろく読めたらどんどん読んでみようと思ったんだけど、微妙な感じ。小説を読んだらまた違う印象を持てるのかな。

 

もっと知りたい

 というわけで、昨年出版の岩波新書『K-POP』を読みました。初訪韓の往復の機内で。KPOPってなに?という疑問も、なんでこんなに世界的にウケているの?という疑問も解消されました。Youtube、恐るべし。

 本書では韓国のポピュラー音楽史を概説してくれているので入門者には有難かったです。日本の真似をしていた韓国は日本を追い越し、アメリカに目を向け、さらに独自の路線を走るようになったんですね。日本のアニメ、韓国のKPOPって感じも納得。いずれにしても好きな文化を持っている国は嫌いになれないですよね。いい戦略だと思います。平和的だし。日本の若者もKPOPのグループにいたりしますが、日本発のKPOP的グループがあってもいいのになあと思いました。


 韓国の観光地でも東南アジア系の人たちがけっこう多くて、これはKPOPファンなのかなーと思ったりしました。それとソウルには大きなCDショップがなかった! 本書で書かれていたダウンロード社会を実感しました。


 KPOPをほとんど聴いていないので、本書に出てくる人名やグループ名を見ても曲がひとつも思い浮かばないのがちょっと残念ではありました。でも帰国後に見ていた韓国のバラエティ番組に登場した歌手が、さっきこの本を見直したら大物シンガーソングライターの位置づけだったのでビックリ。番組ではトホホな中年男性だったので。今度、ちゃんと聴いてみようっと。

韓国エンタメの謎とき

 韓国絡みでもう1冊『韓流エンタメ日本侵攻戦略』という新書を読みました。にわかファンの私には冬ソナ以降の流れを教えてくれて、ああそういうことなのかと腑に落ちる点が多々ありました。

 なぜK-POPはあんなにレベルが高いのか、なぜメンバーは外国語が達者なのか、なぜこんなに日本に攻勢をかけてくるのか(それに引き換え、日本のアイドル系はなぜあんなに子供っぽく、また海外へ出て行かないのか)といった疑問があっさり解決されました。それもこれも韓国のエンタメマーケットが小さすぎるからなんですね。(そして日本は国内市場だけで充分潤っているから海外に出ていく必要を感じないと)。


 ドラマから入ったわたしですが、ドラマにはアイドルも出演していて、演技がうまければ、どんな歌を歌っているんだろうと気になります。まんまと戦略に乗せられてる感じですね。お金を落とさないところが違っているだけで。


 芸能界という小さな世界の解説書ですが、そこから一般的な韓国人の考え方も透けてみえます。社会学的な意味でもおもしろい1冊でした。この本は少し前のものなので、もう少し新しい話も読んでみたいです。

今の韓国フェミニズム

 韓国マイブームが続いています。ハングルも読めるようになってきたし、こうなったらとことん行っちゃおうという気持ちでいます。というわけで『ヒョンナムオッパへ』というアンソロジーを読みました。「韓国フェミニズム小説集」という副題がついていて、7人の作品が収録されています。

 フェミニズム小説をと依頼されて書かれた作品ですが、ミステリあり、ホラーあり、SFありとバラエティに富んでいました。表題作とその次の作品はドラマの登場人物を見ているようで読みやすかったのですが、そこからどんどん混沌としていき、なんでこれがフェミニズムなんだろうと思うような作品もありました。

 私にとっては玉石混淆でしたが、それでもよい経験でした。韓国文学、また手に取ってみようと思います。

忘れない

 図書館の棚で光って見えた『ワンチュク国王から教わったこと』を読みました。先代の国王の佇まいがとても素敵だったのと、震災からまだそれほど日も経っていないときに、日本を訪問して被災地に祈りを捧げる現国王ご夫妻の姿が印象に残っていたので。

 本自体はその日本訪問に随行したペマ・ギャルポさんが書かれたもので、図書館では大人向けの本棚にあったけれど、内容はむしろ子供向けでした。そして子供にこそ国王の真っ直ぐなメッセージが届いて欲しいと感じました。でも今の子供たちはもうあの震災を経験していなかったり覚えていなかったりなんですよね。伝え続けるって難しいことだとつくづく思いました。

 ブータンにおける国王の役割はよく分からないのですが、国を牽引していこうという積極的な姿勢がうかがえました。幸福度ナンバーワンと言われるブータン。いつか行ってみたいです。

 意図したわけではないのですが、本を読んだのは3月11日でした。震災を忘れてはいけないと改めて教えられた気がしました。

合わせ技

 コミックもエッセイもおもしろい益田ミリの小説『一度だけ』を読みました。

 弥生とひな子の姉妹を軸にした小さな世界の物語。弥生は離婚後、マンションに妹と住みヘルパーの仕事をしており、妹のひな子は派遣社員の契約が切れたところです。ひな子が叔母の清子に誘われて高額のリオ・カーニバルツアーに同行するところから話は始まります。

 旅行に誘われたことではなく叔母が大金を妹に出したことに嫉妬してしまう弥生とか、旅先で知り合った夫婦の会ったこともない息子と結婚することを妄想してしまうひな子とか、分かるなあ。そういう小さな気持ちの掬い方がうまいと思いました。妄想といえば、ヘルパーの弥生もプールで知り合った起業家の杏花に誘われて転職を考えるのだけど、作家の書き口にはちょっと棘があって、読んでいるわたしにもそんなうまい話があるかしらと考えてしまう棘が生まれます。うまくいくことだってあるかもしれないのに。作家は小さな気持ちの棘も掬い、そうして読者のわたしにもそれを伝染させるのでした。

 益田ミリは先日『美しいものを見に行くツアーひとり参加』という本を読んだばかりで、そのなかにリオのカーニバルを見に行くツアーに参加した話も出てきます。旅行中に発熱して体調が悪かったことも。あの旅がこういうふうに作品に生かされるんだ……と合わせておもしろく思いました。

 

«今どき男子