時代を感じる表現

 おこもりの日々なのに読書は進みません……。視力が衰えてからほんとに読書に気持ちが向かなくなってしまいました。

 ひさしぶりに読んだのは宮部みゆきの『誰か』。あまり考えずに図書館で手に取った1冊です。奥付を見たら2003年の本でした。

 主人公の杉村三郎は期せずして逆玉に乗り、義父の会社でグループ社内報を作る仕事をしています。その義父の運転手が自転車事故で亡くなり、犯人が捕まらないため娘が手記を出版したいということで、元編集者の三郎が相談に乗ることになったのが物語の発端です。探っていくうちに知らなかった事実が次々と立ち現れて……。

 名手ですから何の引っかかりもなくするすると読めてしまいました。三郎より読者のほうが少し先を進んで読めて、でも真相はそのもう一つ奥にあり、それに気づくのは三郎、という感じ。ただその真相におお、納得というよりも後出しジャンケン感を感じてしまうのはなぜなんだろう。別につまらないわけではないんだけど。

 あれと思って奥付を見なおしたのは喫煙場面が多かったから。時代ってこういう形で古臭くなっていくんですね……。

自分の意見を持たないと

 タイトルにひかれて手に取った「感情的になる前に知らないと恥ずかしい中国・韓国・北朝鮮Q&A」。ほんとに知らないなあと思って。

 開いてみたらルビが多くて、児童書なんでしょうか。とはいえ小学生が手に取るとは思えないから中高生? 中高生にここまでルビ要る?

 ま、それはともかく。あー、東アジアと日本の関係はこういうふうに見るのかと勉強になりました。私たちは現代史を学校でほとんど習わなかったのだけど、今はどうなのかな。そして現代史を学ばなかったのは現代史に対する評価が定まっていないからだと思っていました。この本を読み進めて思ったのは、これは富坂先生の意見であって客観的な評価や定説ではないということを理解しておかないといけないということ。だからこういうふうに見るのか、というよりこういうふうに見る人もいるのかという視点で見るのが正解ではないかと思いました。たとえばこの形で学校の教科に組み込まれたら少し怖い。現代史が教えにくいってこういうことなんだなあ、きっと。他の人の意見も聞いてみないとね。

安楽死を巡って

 少し前に読んだ久坂部羊の『神の手』。この作家の本を読むのは初めてですが、ある韓国ドラマの原作というので興味を持ちました。

 

 テーマは安楽死。目の前で苦しむ末期がんの若者の死を早めてしまったことで心ならずも安楽死の議論の舞台に引き上げられてしまう医師の白川が前半の主人公なのですが、その後、話は安楽死法の成立へと向かっていきます。この成立を目指すカリスマ新見の背後にいるとされる「センセイ」の正体とは……。

 

 安楽死という大きなテーマがあり、安楽死にまつわるいろいろな考え方も紹介されるので安楽死について考えるよいきっかけにはなると思うのですが、小説としては白川から権力闘争や政治に話が移ってしまうので中途半端な感じがしました。これも新聞小説だったので、連載中に心境の変化とかあったのかしら。この作品を読んだかぎりでは次も読む!という強い気持ちにはなれなかったけれど、もう1冊くらい試してみようかなとは思いました。

 

 そしてこの作品を原作としたという韓国ドラマ。あらすじを読むかぎり全然似てないみたいなんだけど……。比較する日がくるのが楽しみです。

壮絶な人生の話

 有り得ない場所で読み始めた桜木紫乃の『緋の河』を読み終えました。帯にカルーセル麻紀の写真があって伝記小説かと思ったら、モデルではあるけれど個々のエピソードはまったくの虚構とのこと。秀男は釧路出身のもうひとりのゲイボーイだと思えばいいのかな。

 

 小説としてはとても面白かったです。秀男は戦って戦って前へ前へと進んでいくんです。その心持ちや方向は正直理解できたとは言えないけれど、素直にかっこいいなあと思いました。なんとなく流されてここまで来ちゃった自分と引き比べて。500ページ超の長編(私的には)だったのですが、まだまだこの先を読みたい気持ちになりました。カルーセル麻紀さん、もうずっとお見かけしていないけどどうしていらっしゃるんでしょうか。

 

 そして、このお話、新聞小説だったんですね。この題材が新聞小説になるんだと時代の流れというか感慨深いものがありました。

お仕事小説好きを再確認

 記録漏れの本、その3は麻宮ゆり子の『世話を焼かない四人の女』でした。読みやすいお仕事小説です。四人の話はつながっていないようで、共通の登場人物が一人だけいるのがミソ。そしてバラバラな4人の女性はそれぞれ魅力的でした。

 昨年は、ほんとに小説を読まなかったのだけど、この本を読んだとき、ああ、そうだ小説っておもしろいんだった、と思い出させてもらったのでした。この人の本は、機会があればまた読んでみたいです。

 気づいたらもう4月。今年の読書も前途多難です……。

湖色の物語

 絲山秋子の『夢も見ずに眠った』も去年読んで、記録をつけていなかった本です。別れてしまった夫婦の話なんだけど、舞台があちこちに移るのが印象的でした。そして話が淡々と進んでいくのも。

 離婚ってすごく重くてドロドロしているような気がしてたけど、実際にはこんなふうに各々の心の中では淡々と粛々と進んでいく夫婦も多いのかもしれませんね。夫婦の話が軸なんだけど、全国各地の謎の博物館の描写がけっこう細かかったのもなんだかおかしかった。本筋からは外れてるんだけど、でも文章が上手だから、ついついこれはこれでおもしろくて読んでしまったのでした。

   私は共感覚の持ち主ではないのだけれど、この作品を読んでいるあいだ、透明度の高い静かな湖の色のような小説だなあと思っていて、東山魁夷の絵がずっと頭に浮かんでいたのでした。小説に湖が出てくるわけでもないのに。

オタクは素敵

 

 三浦しをんと原武史の対談集『皇室、小説、ふらふら鉄道のこと。』を読んだのは去年の10月でした。ここからは読書修了時の記録がないので、うろ覚えの感想です。もうほとんど覚えていない。恥ずかしい。

 聞き手の三浦しをんが上手なのかもしれないけれど、自分の興味のあることだけを深堀りする原さんの世界に感動しました。これこそオタクなのでしょうが、深く掘った知識の豊富なことに驚かされます。そうか、これが学者というものなのか、それでいいのか、と目から鱗が落ちるようでした。まあ日本国民全員がこういうわけにもいかないけど、こういう人を大切にできる社会でありたいですよね。

年をとるってこういうこと?

 昨年読んで記録に残していない本の感想を書いておきます。この本を読んだのは去年の7月。半年間ペースがすっかり崩れていたということですね。以下、7月に書いたままの記録です。

 
 うわあ久しぶりだと思って手に取った室井滋の『おばさんの金棒』。といっても出版は3年前でした。
 室井滋といえばエッセイの名手で、何か引き寄せる力を持っているの?といいたくなるくらい不思議な事件に遭遇する人というのがわたしの印象です。


 でもこの本のエッセイは短いせいか、いつもより不思議体験が少ない感じ。それとよく怒っているんだけど、世の中が杓子定規でいかん、もっと融通をきかせられないのかとか、最近の若い者は気が利かんとか、おじいちゃんみたいな怒りが多くて、室井さんも年をとってきたのかもと感じてしまいました。いつも大笑いしていた室井滋のエッセイなのに、この本に限っていえば、なんだか寂しくなってしまったのでした。

2020年最初の1冊

 今年の読書、最初の1冊は上野千鶴子の『みんな「おひとりさま」』でした。上野千鶴子、実は初めてです。フェミニストの人っていつも怒っているイメージで、マイナスのエネルギーを受け止める元気がなくて……なんとなく敬遠していました。

 
 私は韓国ドラマが大好きなのですが、最近の韓国ドラマにフェミニズム的視点が取り入れられているのは『82年生まれ、キム・ジヨン』がベストセラーになったこととは無縁ではないと考えており、そしてその流れを好ましいものだと思っています。だとしたら発信者の怒りも含めて受け止めなければいけないのかもしれないと考えるようになって、上野千鶴子に対するハードルも低くなりました。

 上野さんは確かにとても怒っていました。でもその怒りは真っ当だし、見当違いの反論をバッサバッサと斬っていく姿は颯爽としていました。知は武器でした。馬鹿なふりをしていたほうが世の中を上手く渡れるのではと考えて、本当に馬鹿になった私の浅知恵を心から反省しました。って今更どうにもならないよね……。

 
 本自体はあちこちに掲載された原稿や対談の寄せ集めなのですが、編集者の腕がよくて、さまざまなテーマについて取り上げられている分、入門者には最適でした。

 
 そもそもは自分の老後について考えようと思って手に取ったのですが、自分の老後やフェミニズム以外に、介護についても深く考えさせられました。


 新年に読んだ1冊として大正解だったと思っています。今年はこの人が「今年の作家」になるかもしれません。とにかくもっと読んでみたい気持ちでいっぱいです。

2019年のマンガなどの記録

 昨年のマンガ・コミックエッセイ・絵本含めて「読書メーターに登録した記録」は148冊でした。2018年の半分以下です……。とほほ。


 読み続けていて最終回を迎えた長編作品は『椿町ロンリープラネット』『セキララにキス』『思い、思われ、ふり、ふられ』『響』といったところでしょうか。『からっぽダンス』 は一気に読みました。新刊を追いかけている作品のラインナップに今年新たに加わったのは『私たちはどうかしている』ぐらいだったかも。新規開拓が足りなかったですね。


コミックは今年も読み続ける……予定。数は……現状維持を目指します。

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読んだ本(2020)

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